13歳からのアート思考/末永幸歩さん著

13歳からのアート思考/末永幸歩さん

前記事で

デザインとアートの違いについて書きましたが

この本では「アート思考」について

美術教師の末永さんが書かれています。

 

とても興味深い内容で、アートとは何か?

に通じるところもあり、また

作品創りの参考になるかと思いご紹介します。

 

 

この本で末永さんは

アート思考とは

自分だけの視点で物事を見て

自分なりの答えを創り出す作法

であると言っています。

 

アーティスト

目に見える作品を生み出す過程で

自分だけのものの見方で世界を見つめ

自分なりの答えを生み出し

③それによって新たな問いを生み出す

ということをしていると。

 

 

この本の冒頭にこんなことが書かれています。

「皆さんは美術館へ行くことがありますか?」

「美術館に来たつもりになって次の絵を鑑賞してみてください」

そして次のページに

クロード・モネの「睡蓮」の絵と

その下に解説文が載っています。

 

そして次のページに

「今、あなたは絵を見ていた時間と、その下の

解説文を読んでいた時間、どちらの方が長かったですか?」

私は絵を数秒見て、ああこの絵かと思いながら

下の解説文を読みましたが

おそらく同じくらいか

解説文を読む方がいくらか長いくらいでした。

 

多くの方はこのような見方ではないでしょうか?

数秒絵を観るが

ぱっと見では何をメッセージしているのかつかみかねて

下の解説文を読み あ~そういう事か

とその絵を理解したつもりになる。

そして時々何分もじっくり立ち止まって

絵を見ている人がいたりすると

「いい加減はやく先に進んでくれないかな」

などと思ってしまう。

 

自分なりの物の見方とは程遠い鑑賞の仕方です(笑)

 

そしてその後にこんなことが書かれています。

 

「かえるがいる!」

岡山県にある大原美術館で4歳の男の子が

モネの「睡蓮」を指さして言ったそうです。

その場にいた学芸員はこの絵の中に「かえる」がいないことは

当然知っていたはずですが

「えっどこにいるの?」 と聞きかえしました。

 

すると男の子はこう答えたそうです

「いま水にもぐってる!」

 

私はこのページを読んだとき

思わず笑ってしまいました。

 

しかしアート作品をこういう自分なりの目で見て

作品に描かれてないものを観たり感じたり出来るのが

アート思考だと著者は言っています。

 

 

また末永さんはアート思考の概念を花に例えて

次にように語っています。

アートという植物は大きく3つの要素から構成される。

①アート作品に当たる<表現の花>

②表現の花を咲かせるための<興味のタネ>

ここには興味・好奇心・疑問が詰まっています。

③興味のタネから生えている無数の根<探究の根>

これはアート作品が生み出されるまでの

長い探求の過程を示しています。

 

そしてアート思考とは

空間的にも時間的にもこの植物の大半を占める

地表に出ていない<興味のタネ>と<探求の根>

の事でアートの本質は

作品=<表現の花>をアウトプットするまでの

思考と探求の過程のことです。

 

「美術」で学ぶべきことは

上手に絵を描いたり

美しい造形物を創ったり

歴史的な名画の知識を得る事ではなく

アート的なモノの考え方

=アート思考を身に着ける事

であり、これは美術の世界だけでなく

ビジネス学問人生にも通じるものです。

 

 

数年前からビジネスの世界では

デザイン思考(デザインシンキング)

をビジネスや経営に取り入れる事が話題になりましたが

 

昨今はアート思考をビジネスや経営に取り入れ

現代の VUCA時代 を乗り切るといった潮流もあるようです。

V(Volatility=変動)

U(Uneertainty=不確実)

C(Complexity=複雑)

A(Ambiguity=曖昧)

 

あらゆる変化の幅も速さも方向もバラバラで

世界の見通しが利かなくなってきた昨今

世の中の変化をいち早く察知し対応する

でももはや間に合わず

自分なりのモノの見方や

答えの出し方を持っていないと

現代の世の中は乗り越えて行けず

新しい価値創造は出来ない

という事だそうです。

 

 

アート探求の歴史

アート思考の話に戻りましょう。

末永さんはアートに対する考え方は

20世紀以前のルネッサンス画家と

20世紀以降の現代アーティストとの間で

大きく変化したと言っています。

 

ルネッサンス時代の画家の社会的地位は

フォトリアルな描画技術を持った職人で

王侯貴族の依頼を受け

肖像画や宗教画を描いていました。

彼らはリアルな表現を追求し

手段としての遠近法を生み出し

光や影の表現等も追求しました。

ですから20世紀までのアート=

目に見える通りに描かれた

リアルで美しい絵画や彫刻でした。

 

しかし20世紀に入りカメラと写真が開発され

アートの概念が大きく変わります。

リアルに表現する事自体の価値が薄れ始め

画家たちは改めてアートの意義を考え始め

アーティストは何をすべきか?

アーティストにしか出来ない事は何か?

を考えはじめたのです。

 

著者の末永さんは

カメラが発明され普及した

20世紀以降の画家たちが

 

アートとは何か?

という問いに対する答えを求めて

探究の根を伸ばし始め試行錯誤する過程を

20世紀を代表する6つの作品と

アーティストを通じて紹介しています。

 

 

① アンリ・マティス

緑のすじのあるマティス夫人の肖像

アートとは写実的な美しい表現である

という概念を壊し

現実の「色」を表現する為の「色」から

「色」を純粋に「色」として自由に使う

という自分なりの答えを生み出す。

 

 

② パブロ・ピカソ

アビニヨンの娘たち

リアルさを追求し考え出された表現技法

遠近法に疑問を持ち

1つの視点から見た世界がリアルなのか?

複数の視点から見た世界を再構成し

1つの画面にまとめたものもリアルではないか?

という自分なりの答えを生み出す。

 

 

③ ワシリー・カンディンスキー

コンポジションⅦ

クロード・モネの 積み藁

を観てその斬新な表現手法から

何が描かれているのかがすぐに分からず

にも係らずその絵に惹きつけられた事から

「何が描かれてるか分からないからこそ

惹きつけられたのでは?」と考え

具象物の表現から

音楽の「音」を「色」に置き換えて

リズムを形で表現し

音楽の様に直接人の心に響き

観る人を惹きつける絵を追求し

自分なりの答えを生み出す。

 

 

④ マルセル・デュシャン 泉

アートのあらゆる常識を疑ってかかり

アートは美を追求するすべきものなのか?

という考えを探求し

「目」ではなく「頭」で鑑賞するアート

という自分なりの答えを生み出す。

 

 

⑤ ジャクソン・ポロック

ナンバ―1A

アートは何らかのイメージを映し出すもの

という概念を打ちこわし

絵画はただの物質・絵の具とキャンバスという

物質を使って作った絵画

 

 

⑥ アンディー・ウォーホル

ブリロ・ボックス

食器用洗剤のパッケージデザインを

木箱にコピーしたものを積み上げ

多くの人が潜在的に持っているアートの城壁

これはアートだ・あれはアートではないといった

アートの枠組みなど何もないのでは?

という問題提起を投げかけた。

 

もはやアートとは?

という問い自体が無意味なものになりました(笑)

 

 

この本の結論は

これがアートだというものは存在せず

ただ、アーティストがいるだけ。

 

そしてアーティストとは

自分の好奇心や内発的な関心からスタートし

価値創出をしている人

絵を描いている人物を創っている人

だけとは限らない。

 

自分なりのモノの見方・考え方で

自分なりの価値を探求し創造し続けている人

アートとは? の答えは

人の数だけあって良いのですね。

 

 

彫紙アートの創始者・林 敬三先生は

ご自身のブログでこのように言われてました。

 

「感じたことを感じたままに作品にすることがアートです」

 

自分なりのリアルさを追求するのも良し

自分なりの抽象表現を追求するのも良し

深さや盛り上がった立体感を追求するのも良し

極力少ない枚数でリアル表現を追求するのも良し

いかにシンプルに、美しさを追求するも良し

可愛らしさを追求するのも良し

配色の美しさや心地よさを追求するのも良し

 

あなたの彫紙アートとは何ですか?

 

 

<睡蓮>モネ
出典:https://g-sozai.com/sozai/562.html

 

 


 

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