プロダクトデザインの仕事 JD-N51CL

 

デジタルコードレス電話機 JD-N51CL

<2005年>

 

オーソドックスな親機と子機を組み合わせた

デジタルコードレス電話機のモデルで

子機は JD-S10JD-CL と同じデザインですが

親機がある分コストダウンを図る必要がある為

塗装を廃止し、操作キーも従来のラバーキー

を採用しました。

 

ラバーキーというのは電気の配線が印刷された

基板上に直接ラバーを乗せ、キーを押すと

途切れた電極間をラバーと一体成型された

通電素材が接触し通電するというしくみで

部品としては電極が印刷された基盤と

ゴムと通電素材が一体で成型されたキー

の2点なのでコスト的には安いのですが

いわゆるスイッチを押したときの

カクッ・カクッといった感触が弱く

スキーの凸量も大きくなるため

デザイン的にはややもちゃりした

安っぽい感じにはなります。

 

ただS10のデザインは

それ以上に尖ったところがあるので

こうしたコストダウンを取り入れても

何とかデザイン価値はキープ出来たと

思いたいです(笑)

 

 

親機デザイン

親機も子機同様に

アナログからデジタルに変わることで

チューナー部品がコンパクトになり

上面からの面積サイズは JD-N77CL (前出)

と同等ですが側面の高さが抑えられ

薄くスタイリッシュなデザインが実現

出来る様になりました。

 

こちらもターゲットユーザーは

20代後半~30代の若いファミリーです。

シンプルでフラットなデザイン表現により

デジタルの先進性とインテリア性を両立できる

インテリア空間にフィットしさりげない存在感

を示せるデザインを目指しました。

 

シンプルさだけでなく

プロダクトとしての上質感を出す為

本体の操作パネルに透明パネルを使い

表面のフラット感を強調するデザインを

提案したのですが

このデザインを実現しようとすると

フラットな透明板に裏面からベタ印刷と

表から文字印刷を施し

両面テープで本体に張り付けるしかありません。

今ではスマートホンなどで

普通に行われていますが

この当時は家電製品のキャビは

ツメで上下キャビを引っ掛けた上で

ビス止めをするのが常識でしたので

機構技術部からすると

あり得ないデザイン提案だったのです。

 

また両面テープで貼るにしても

透明板を樹脂成型で作る場合

沢山のキー穴が開いている為

ウエルドラインと言われる成型時にキズの様な

線が穴と穴の間に生じます。 これは

金型に樹脂を流し込んだ際2手に分かれた樹脂が

ふたたび合流する場所に出来る樹脂と樹脂との

境目なんですが、これを目立たなくするには

①金型自体の温度を上げて成型する

②樹脂の温度を高くし射出速度を早くする

③樹脂圧を高くする。

など… 成型時に様々な工夫が必要となり

コストアップ要因になるのです。しかも

完全にウエルドを無くすことは不可能。

 

また樹脂成型の場合デザインで狙っている

ガラス板の様なフラット面をつくるのも非常に

難しくよく見ると微妙に波打った面になる事が

ほとんどなのです。

 

これを解決するにはフラットな透明板材から

切削加工で1枚1枚切り抜いて削り出す方法が

あるのですがとても手間とコストがかかり

数十万もする高級オーディオなどでは

使われるかもしれませんが

1万5千円 ほどの電話機で使われた例は

聞いたことがありません。

 

まさに技術者泣かせの提案だでした…。

 

しかし時代は大きく変化している時でした。

生産地が国内から中国に移行する中で

従来の国内生産での常識も様々な面で

変わりつつありました。

その1つが生産・加工現場のCAD化推進です。

 

従来の切削加工と言えば職人さんが1点1点

手作業で加工しており

完成度も高い代わりに手間と時間がかかり

その分コストに跳ね返って来ます。

 

しかしCAD化が進んだ事で

それほど複雑で超高品位を求める加工でなければ

データさえ入力すれば後は機械が昼夜を問わず

生産し続けることが可能で職人技も不要です。

中国で生産する事で人件費も抑えらる事から

切削加工でもある程度の条件下なら

樹脂成型と同等のコストで

生産できるようになっていました。

 

しかしそうはいっても今まで経験のない

切削加工による生産です。

想像もしていないトラブルが発生することも

十文あり得る事から技術者もかなり悩んだ挙句

どちらの生産方法で進めるべきか

デザインの私のところにも相談を頂きました。

 

新しい事をトライするのにトラブルはつきもの。

しかしトラブルが起きるかどうかは

やってみなければ分かりません。

私としては切削加工で進めたい旨を伝え

最終的にそちらの方向で進めることになりました。

 

 

親機デザインはフラットな透明パネル上に

シルバーのファンクションキーを3つ並べ

右端に十字のカーソルキーをデザインアクセント

としてグラフィカルに表現。

これだけだと

全体にモノトーンでクールなイメージになるので

右下の留守ボタンに黄緑のアクセントカラーを

入れる事でクールな中にも親しみや温かみを

感じるデザインにしました。

 

シンプルで、少しだけ先進感と

愛嬌と親しみを感じる…

良いデザインになったと自負しています。

 

このモデルでは3色のカラーバリエーション

検討を  S10デザインを手がけた

グラフィクデザイナーI さんにお願いし

彼は、定番の ホワイト・ブラック

に加え3色目のチャレンジカラーとして

ホワイトとブラウンのコンボ案を

提案してくれました。

 

当時家電製品でブラウンを使うのは

中々受け入れられず企画部や営業部からも

あまりポジティブな反応は得られませんでしたが

メインカラーのホワイト・ブラックを抑えている

のでマーケットの反応を見る為にも

台数を抑えてやってみる事になったのですが

いざ発売してみると結構良い反応が得られ

家電でもブラウンは行ける!

と確信することが出来ました。

 

Iさんの Good Job です!!

 

 

 

 

シンプルプラスデザイン

JD-S10CLとJD-N51CLのデザインでは

筐体を極力シンプルにまとめ

十字カーソルをデザインアイコンとして

シンボリックにまとめまた事から

このデジタルコードレス電話機のシリーズ

シンプルプラス・シリーズ として

カタログ等で打ち出すことになりました。

 

シンプルプラス(+)

私はこの言葉の響きがとても心地よく感じ

自分のデザインフィロソフィにしよう

と思いました。

 

単に十字カーソルキーをデザインアイコンにする

という意味ではなく。

 

「シンプルで長く使っても飽きが来ない

そしてただシンプルなだけでなく

何か1つ…

情緒的な魅力を感じるデザイン」

 

”シンプルプラス(+)デザイン”

 

情緒的な魅力というのは

グラフィカルな表現でもいいし

全体のフォルムや佇まいでもいい。

素材やテクスチャーの組み合わせから

感じる魅力でもいい。

そのデザインを見たり触れたり使ったりした時

フッと微笑んでしまうような

思わず触れてみたくなるような

可愛らしさや魅力・愛着のようなイメージです。

 

B&Oのオーディオのような

ミニマルに研ぎ澄まされ洗練されたデザインとは

少し違います。

 

もっと身近で… 生活に溶け込んだ…

美しくて愛着を感じるデザイン。

 

そんなデザインをこれからもしていきたいと思いました。

 

 

 

 

おすすめ記事

1

<林 敬三先生の作品>   彫紙アートってなに? 日本彫紙アート協会 会長の 林 敬三先生が考案された 重ねた色紙をアートナイフで彫って 創作する奥行き感のある半立体アート。   ...

2

  体験クラスは、材料代¥1,500を支払えば 2時間(1コマ)のレッスンを通じて 簡単な作品を1点創らせてもらえるとの事。 (創った作品はお持ち帰り)   材料と道具は全て教室の ...

3

  彫紙アートの下絵の作り方について。   彫紙アートスキル2級・1級とやってくると そろそろ、オリジナル作品を創りたくなってきます。   教材の下絵が自分の好みのものば ...