幻のインテリアホン JD-DX1
<2014年>
今回ご紹介するのは、最終的に商品化に至らなかった
しかし私にとっては一番思い出深い仕事で
課長としての最後の先行開発業務になった
インテリアホン・デザイン開発です。
デジタルカメラとデジタルフォトフレームの
需要拡大に合わせて
家庭用電話機にカラー液晶を搭載し
フォトフレーム機能+インテリアガジェット機能で
差別化を図りデビューした
インテリアホンシリーズでしたが
スマートホンの普及と共に
デザイン性は購入動機になっていたものの
液晶画面を用いた付加価値は
ほとんど意味をなさなくなっていました。
そんな時、商品企画部のチーフから
こんな話をもらいました。
インテリアホンはデザインで売れている
けれども液晶画面を使った付加価値は
ほとんど使われていない
商品の原価コストで大きな割合いを占める
液晶を用いながら使われていないのでは
いたずらに原価率を上げているだけで
商品価値に繋がっていない。
それではいっそ液晶は廃止して
今まで液晶に使っていたコストを
デザインの付加価値(素材や仕上げ)に使い
純粋にデザイン性に特化した
インテリアホンを考えたいと…。
これはデザイナーにとってはとても喜ばしいオファーで
価格の厳しい家庭用電話機ではあり得ない事でした。
この時、家庭用電話機の売れ筋価格帯は1万円以下
デザイン性と液晶の付加価値を付け
1万8千円で売り出したインテリアホンも
1万5千円を下らないと売りが伸びませんでした。
ですので今までは携帯電話などで使われている
コストのかかる塗装仕上げや素材は使えない為
どちらかというと
親しみを感じる「雑貨テイスト」の中で
デザイン価値を訴求して来ました。
ちょうどこの頃
会社全体が経営危機にさらされており
2012年には初めて希望退職者を募るなど
全社的にも担当事業部も経営が厳しい時で
そのため私が担当していたこの
家庭用電話機・FAX&電子辞書・電卓事業部の
親・事業本部が、通信(携帯電話)事業本部から
情報家電(AQUOS・AUDIO)事業本部に
変わった時でした。
私はTV(AQUOS)のデザイン部門
情報家電デザインセンターの傘下となり
当時の上司からこんなコメントを貰いました。
インテリアホンもAQUOS(TV)も
同じリビングに置かれて使われる商品だよね
AQUOSはそれなりの価格の商品なので
高品位なデザインを訴求しているけど
インテリアホンは雑貨的なデザインを訴求していて
デザインテイストが少し合っていない気がする
コスト的な課題はあると思うけど
出来れば1度AQUOSの世界観に合った
大人のインテリアホンデザインを考えてほしい。
そう言われると確かにその通りで
確かにイメージしているユーザー層が
微妙にずれている事に気が付きました。
しかし家庭用電話機のコストが厳しいのも事実。
そんな事を言われていた時に
前出の企画チーフからの相談があり
これはチャンス!
出来るかどうかは分からないが
液晶ユニットのコストを素材や仕上げに使って
AQUOSの世界観に合う
大人のインテリアホンをデザインしてみよう!
という事で
ニューインテリアホンプロジェクト
をスタートさせました!
NEW INTERIOR PHONE!
この商品はまだ正式に、企画部から
デザイン依頼が来たわけではありません。
しかし私は、企画部から依頼が来た時には
すぐにデザイン案を提案できる様
翌年の春くらいをめどにスタートさせました。
デザイナーは3人
女性デザイナーのK・Tさん
ベテランデザイナーのK・T係長
同じくベテランデザイナーのT・H係長
特に女性デザイナーのK・Tさんは
初めてのインテリアホン担当
今まではシニア向けの電話機・ファックスなど
デザイン性を訴求しにくいモデルを中心に担当し
長年チームの底支えを担ってくれていました。
数年前からカラートレンドを専任で勉強してもらい
JD-S07(電話機)
PW-SH1(電子辞書)
PW-SH2(電子辞書)
などのカラーバリエーション・コンセプト提案で
確実に成果を出してきていたので
このプロジェクトでプロダクトデザインでも
成果を出してほしいと思っていました。
そして何より
この電話機やファックスというのは
女性が購入決定権を持っているケースが多く
男性デザイナーとは違う女性ならではの視点での
デザイン提案を期待しました。
ベテランK・T係長は、2代目インテリアホン
JD-4C2/JD-7C2 をデザインした実力派
一度デザイン本部の開発部門へ移動し
再び戻って来た時です。
彼には実質的にこのプロジェクトのリーダーとして
引張って行ってもらう事にしました。
もう一人のベテランT・H係長は
モバイル・携帯端末系の
緻密で男性的なデザインが得意なタイプ。
その経験と実力は折り紙付きですが
数年前にガンが発覚し大手術を終えた後
抗がん治療をしながらの勤務という
とてもハードな状況でしたが
きっと個性的な1案を出してくれるだろう
という期待からこのプロジェクトに
参加してもらいました。
それぞれの強みと個性を持った3人が
どんなデザインを提案してくれるか?
とても楽しみでした。
ペルソナ設定
初代・2代目インテリアホンの
ユーザーターゲットは
20代後半~30代前半の結婚して新居を構え
新しい生活をスタートしようとしている
若いカップル又は
小さいお子さんがいるご夫婦でしたが
今回の NEW INTERIORPHONE は
30代後半~40代・収入も安定していて
リビングには50~60インチの大型液晶TV
を置いている(AQUOSユーザー)
共働きでインテリアにはこだわりのあるご夫婦
といった具体的なペルソナ設定をしました。
デザイン展開…
3名のデザイナーはそれぞれ独自の切り口で
デザイン展開を始めました。
A)女性デザイナーの K・T さんは
モノが主張し過ぎない、生活空間に自然になじむ
しかし、モノとしての完成度の高さと美しさを
兼ね備えたインテリアホン
B)リーダーの K・T係長 は
従来のインテリアホンシリーズで踏襲して来た
最もコンパクトな設置スペースをキープしつつ
インテリア空間にフィットする素材感を活かした
(ウッド・ミラーなど)
直立タイプの ニュー・インテリアホン
C)ベテラン T・H 係長は
インテリアのアクセントになる様な
肉厚のある透明素材の素材感を活かした
ニュー・インテリアホン
3人のデザイナーが提案してくれた
3案のニューインテリアホン・デザインは
どれも素晴らしく
個性を活かした異なる切り口で
それぞれ完成度の高いデザインに
まとめてもらったと思っています。
各案、商品化するにあたっては
素材の加工・組立て設計において
超えるべき高いハードルがあるかと思いますが
それぞれ各素材メーカーさんにも
技術的な面での量産化の可能性は確認し
後は生産台数や設計条件などにより
どこまでコストを抑えられるか?
という処までは検討を進められたのですが
最終的に商品化は見送りとなってしまいました。
その理由は…
事業部の経営状況がかなり厳しい状況となり
ユーザー比率が低いインテリアホンよりも
ユーザー比率が圧倒的に高く売り上げに影響する
高齢者向けの電話機ラインナップを優先して
強化する必要が生じたからです。
インテリアホンのユーザー比率は10%~15%
デザイン性を求めるユーザーは確かにいるものの
実質的な売上貢献度は高くなく、むしろ
ブランディングの要素の方がが強かったのです。
そういった理由で
最終的に商品化には至りませんでしたが
このプロジェクトで3人が提案してくれた
3案のデザインはどれも素晴らしく
私にとっても思い出深い仕事となりました。
商品化見送りとなる前、3案のデザインモデルは
社内の技術開発展においてデザイン開発事例として
展示し、他事業本部/事業部の若手社員から
こんな電話機が欲しい
ぜひ商品化してほしい
などの嬉しいご意見も頂きましたし
また某・インテリアセレクトショップの
商品開発部門の方々にデザインモデルを
ご紹介しご意見を聞かせて頂きましたが
3案共に好評を頂き
デザインの可能性も感じていたので
本当に残念でした。
しかしこのような素晴らしいデザインを提案
してくれた3人のデザイナーには
心から感謝しています。
本当に、ありがとうございました!