インテリアホン JD-4C2
<2011年>
インテリアホンの2世代目となる最初の商品ですが
私にとってこのデザイン開発は
色々な意味で思い出深い仕事でした。
成熟市場であった家庭用電話機市場において
液晶ディスプレイを加えて提供できる付加価値と
デザイン性に特化した初代インテリアホンシリーズは
限られたユーザー層ではありましたが、小さな
1つの商品カテゴリーを創出できたと思っています。
ユーザーアンケートの購入動機を見ても
7インチの JC-7C1こそ
1.デジタルフォトフレーム機能
2・デザイン
となっていましたが
3インチのJD-3C1/4インチのJD-4C1は
1.デザイン
とデザインが購入のきっかけに成っていることが
明確に示されました。
商品開発のライフサイクルにはおおむね
① 導入期
② 成長期
③ 成熟期
④ 衰退期
といった過程を踏んでいきます。
この時家庭用電話機は携帯電話の普及に伴って
成熟期から衰退期に差し掛かるころでしたが
この時期に行われる商品戦略の1つに
ユーザーターゲットの細分化があります。
このインテリアホンもこれに当たり
初代でまずまずの感触をつかめたことで
第2世代を展開することになりました。
初代インテリアホンシリーズは
若手デザイナーの Iさんと
グラフィックデザイン出身の Iさんと
2人のデザイナーに関わってもらいましたが
2世代目から新たなメンバーが加わります。
30代後半ベテランデザイナーのKさんです
Kさんとは前職場(白物家電のデザインセンター)で
一緒に仕事をした経験があり
私が30代前半のころ新入社員で入ってきた彼は
入社早々最も難易度の高いカテゴリーの1つである
縦型クリーナーのデザインを見事に一人でやり遂げ
新入社員ながらその造形力とデザインセンスの良さを
如何なく発揮していた実力派で
デザイナーとしても信頼できる人物です。
そのころ私のチームは
JD-7C1/3C1をデザインしてくれた
若手の Iさんが転職の為退職し
グラフィックデザインから転身した Iさんが
チームを引張ってくれてましたが
さらに実力をつけてもらうためにも
Kさんの様なベテランで経験豊富な
チームリーダーが必要でした。
そして今回の2代目インテリアホンは
4C1をデザインした I さんと
着任早々のベテランデザイナー K さんに
担当してもらう事にしました。
Iさんは商品をまとめる力はまだ粗削りながら
グラフィック視点での大胆な構成や色使い…
パッケージデザインやカタログデザインまで
展開できる幅広い提案力が強み
一方ベテラン K さんはその経験から
多角的にデザインの切り口を見つけ
短時間で展開するデザイン展開力と
モノとしての魅力の出し方を知り尽くした
素材や仕上げに対する知見と造形力が強みです。
一緒にデザインワークを行う事で
I さんにはベテランデザイナーの
仕事の進め方やデザイン展開時の考え方を…
K さんには I さんのグラフィック視点での
デザインの切り口を…
お互いの強みを見ながら競う事で
完成度の高いデザインの創出を期待しました。
そして私の期待通り
2人はそれぞれの強みを如何なく発揮し
お互いに刺激し合いながら
斬新なアイディアを展開してくれました。
最終的には社内アンケートも含め
オーソドックスでありながらも
デザイン的&造形的に完成度高くまとめてくれた
ベテラン K さんのデザインに決まりましたが
その最終デザインの中には、検討の途中で I さんが
提案してくれたアイディアがいくつも活かされており
やはりこれは I さんと k さん
2人のデザイナーの合作だと私は思っています。
インテリアホンシリーズの課題
実はインテリアホンシリーズには
物理的・機能的な共通の課題がありました
比較的小さなタッチパネルを搭載した
親機本体は従来の一般的な電話機に比べ
接地面積が小さくコンパクトなのが利点なんですが
本体のタッチパネルを押す際
コンパクトすぎて後ろに動いてしまうのです。
これを解決するために本体底面部に
金属のおもりを仕込み、且つ
設計状必要な本体の最小サイズより
後方へいくらかの寸法を延長し
踏ん張るためのゴム脚を付ける必要があります。
JD-4C1の時は本体底面に薄いプレートを
1枚加える形で後方へ伸ばしたのですが
今回はさらに構成要素をシンプルにする為に
ワンフォルムでこのゴム脚の位置課題を
解決したいと思いました。
とはいえ塊としてこの後方位置まで底面を伸ばすと
本体が重々しくなりモノとしても美しくありません。
そこで我々はワンフォルムでありながらも
設計上必要な本体部と踏ん張に必要な脚の部分の
間を抜くことで見た目の軽さと物理的な脚の位置
の課題をクリアしました。
そして本体部の上から下へ流れる形と
脚形状は右側面から左側面に横に流れる形を
組み合わせながらも全体はワンフォルムに感じ
且つ背面から見ても曲面が美しくとても個性的な
デザインにまとめる事が出来ました。
普通ほとんどの家電製品は
前キャビと後ろキャビ・または
上キャビと下キャビ の組み合わせで
設計されるため
このようなデザインは考えにくいのですが
実は、このアイディアのオリジナル案は
I さんがイメージスケッチで提案したものが
ベースになっています。
彼は、なまじ(成型による)製品デザインの
常識を知らない為インテリアでは珍しくない
3mm位の厚みのあるアルミの板を
本体に巻いた様なアイディアを提案したのです。
コストや設計上の課題により
そのままの商品化は難しかったものの
オリジナルのアイディアを成型品で活かすべく
Kさんが試行錯誤し検討してくれたものが
最終デザインの形です。
この抜き形状のデザイン検討も人工木材を使った
ラフモデルで何案も検討し最終案に至りました。
実はキャビ構成も非常に複雑で
結局本体部は 4 パーツ+1で構成されてます。
+1というのは側面に見える
SDカード挿入口のカバーです。
横に巻いた後ろの脚部分のパーツも
内側にリブを立てて 1 パーツで
設計することも可能なんですが
そこはデザインにこだわってきた
インテリアホンシリーズ。
正面の上からのぞき込んでも
脚の内側が美しく見える様
あえて2パーツで設計してもらいました。
またこれは全てのシリーズに言える事ですが
キャビを止める為のビスは底面からのみで
正面・側面・背面からビス及び
ビス隠しのパーツは一切見えない様
機構技術者も知恵を絞り・工夫を凝らして
このデザインの実現に協力して頂きました
本当に頭が下がる思いです。
今までのユーザーアンケートハガキから
インテリアホンシリーズにおいては
お客様がデザイン性を理由に購入頂いてる事から
企画・技術部メンバーにもデザインの重要性を
理解してもらえたことは本当に有難い事で
デザイナー冥利につきます。
もう1つ I さんのアイディアが
活かせれてるところがあります。
それは本体デザインと一体になった
液晶のグラフィックデザインです。
今ではスマホなどで当たり前になっていますが
液晶の表示デザインを本体色に合わせた
グラフィックスは I さんにとっては当たり前で
アイディアスケッチ段階で当然のごとく
表現していました。
しかし今までは本体色のカラバリに合わせて
画面デザインのパターンを持つという事は
行われてなく、本体が何色であっても
画面デザインは共通というのが常識でした。
しかし本体面積に対しての画面面積比が
これだけ大きいと画面デザインも
本体デザインと合わせて行かないと
デザイン品位が保てない為
デフォルトの時計・カレンダー等の
画面デザインは、各本体色に合わせた
バリエーションを持たせるよう提案し
商品化の際にはUIデザイナーと
液晶の表示色と製品本体色を合わせる為の
調整を行うなどして実現することが出来ました。
このプロジェクトを通じて
I さんは最終的に自分のデザインが商品化にならず
非常に悔しい思いをしたと思いますが
K さんとデザインワークを行う事で
色々な気付きや学ぶところがあったと思います。
事実、この後彼はメキメキと実力を付け
この後もチームのけん引役になってくれました。